2018年4月21日

★閻魔様の施し!!「サブカルトーキョーを読んで来た」と言えば、「恐怖のロシアンルーレット」のレベル1・ちくわ串揚げを人数分無料に!

死への恐怖は霊界を知ることで和らぐ。一度は霊界を覗いてみたい人も多いはず。死んだらどうなるのかを知って、安心して長生きしたい。しかし、霊界は一体どこにあるのだろう。薄暗いトンネルを抜けた先だろうか、それとも人気のない墓地の果てだろうか。そんな恐ろしい場所に行くのはむしろ寿命を縮める行為に思える。しかし我々は、思いもよらぬ身近な場所に霊界があるという噂を耳にした。しかも飲んだり、食べたりすることができる霊界だという。

噂を疑いつつ、我々が向かったのは東京都武蔵野市・吉祥寺。吉祥寺といえば、住みたい街ランキング長年一位の街として有名である。吉祥寺だけが住みたい街ですかと鎮静されるほどの人気だ。そんな、いわば人間の精気が溢れるような吉祥寺という場所に本当に霊界はあるのだろうか。

おかしな話だが、その霊界にはホームページがある。我々はそのホームページに載っている、地図ならぬ「地文字」を頼りに歩みを進めた。地図にこの場所を掲載すると、何か変なものが写ってしまうらしい。それなら仕方がない。普段、地図に頼っている人は「地文字」だけでたどり着けるか不安になるだろうが安心してほしい。「地文字」の言霊は強いためか不思議とスムーズに到着することができる。

言霊に乗せられたまま、我々は霊界の入り口までたどり着いた。目印である提灯には「遊麗」と書いてある。どうやらこれがここの霊界の名前らしい。提灯だけ見るとただの居酒屋っぽい。しかし、ただの居酒屋っぽいのは本当に提灯だけだ。提灯から目線を下に下げると、あらゆるものが霊界だと主張し威嚇する。正面に浮かぶ白装束の幽霊や真っ赤なから傘、ぶら下がる血だらけの腕に転がる生首。




我々はそのおどろおどろしさに尻尾を巻いて逃げようとした。しかし、それは許されなかった。我々サブカルトーキョー家のお通夜が執り行われることが告知されていたからだ。




もう逃げることはできない。覚悟を決めて霊界へ降りていく。まだ自分の足はあるだろうかと一歩ずつ確認しながら下る。



最後まで降りきって、ついに霊界へ。

  「うらめしや~仏様、霊界へようこそ~」




おどろおどろしい鬼や化け物が出てくると思いきや、物陰から可愛い幽霊さんがどろんとお出迎え。自分が仏様である事実に戸惑いながら、霊界の中を突き進む。そこは我々が予想していた霊界とはかなり違っていた。霊界を照らすのは提灯の薄明かりであるが、赤提灯のためかあまり怖い印象は受けない。火の玉のようなイルミネーションで照らされた壁には妖怪たちが封印されており、こっちを見ている。まるで我々の霊界入りを祝福しているようだ。だんだん可愛く見えてくる。壁に封印されてなければ仲間になりたかった。我々の霊界での時間を見守ってもらうことにしよう。





カウンターにはたくさんの髑髏が吊るされている。一人で霊界に来てしまっても心細くはないだろう。日頃の愚痴を話したら聞いてくれるかもしれない。




やはり、居心地がいいのだろうか、キープされたボトルも並んでいる。ボトルキープするほどの常連は、霊界と人間界を簡単に行き来できる能力をすでに身につけた超人なのだろうか。我々がその能力を身につける日も近いのかもしれない。




壁やカウンターにだけではなく、頭の上にも注意する必要がある。髑髏や、芋虫のような亡霊が忍んでいる。隠れミッキーを探すテンションで探すと、心臓が止まりそうになるので、くれぐれも気をつけてほしい。まぁ我々は仏様だから心臓は止まっているのだが。





他にも卒塔婆や血だらけの障子、破壊力のあるお面など、不気味なものたちが店内を埋める。神は細部に宿る、ではなく仏は細部に宿ると言えば正しいのだろうか。店にある細かいもの全てが人間界のものではない。霊界に来てしまったのだなぁと実感させられる。






見足りないが、席に着くとする。霊界には二時間しかいれない決まりなのだ。二時間以上いると元の人間界に戻れなくなってしまうのだろうか。我々は自身の名が刻まれている位牌が置かれた席に座った。



「失礼しま~す。霊界へようこそ~。幽霊の冷気で冷やしたおしぼりで~す」

店内を見渡して、十分肝を冷やしたばっかりだが、幽霊の店員さんがおしぼりを用意してくれた。三月の上旬でまだ吹く風が寒い頃であるのに、やはり人間界と霊界は関係ないらしい。

「ちなみに仏様方、成仏は初めてですか? ご愁傷様です~」

ここ「遊麗」では、客を仏様、来店を成仏という。この呼ばれ方にはなかなか慣れない。そして幽霊の店員さんは「じぇしか」と名乗り、本日、初成仏の我々仏様に霊界の掟を説明してくれた。特にメニューの注文方法が独特であった。席にあるお鈴をチーンと鳴らし、手を挙げなければいけない。この手というのは我々の手ではない。席に用意された、切断された何者かの手だ。本当に切られたてホヤホヤのようで今にも動き出しそうである。なぜ自分の手で他人の手を持って注文しなければいけないのか、自分の手で注文してもバレないのではないか、と違和感が残ったが、郷に入っては郷に従えだ。また、お鈴はむやみに鳴らしてはいけないらしい。ふざけて鳴らすと変な幽霊が寄って来てしまう。練習で鳴らさせてもらったのだが、意外とこれが難しく、奥にいる幽霊の店員さんに届く音を一発では鳴らせない。何度も練習してしまったので変な幽霊を呼び寄せてしまったかもしれない。しかし、練習のおかげでお鈴を鳴らす技術はついた。今度、親戚の仏壇に手を合わせに行く時には上手く鳴らせそうだ。




霊界の掟の説明も受け終わったので、我々は幽霊店員じぇしかさんのおすすめメニューを注文した。もちろん掟通りの注文方法をしたのだが、店員さんが「南無~」と返事して来てくれたのは面白かった。仏様の注文のピークには店内に南無南無とこだましていた。

早速、飲み物が運ばれて来た。ちなみに、霊界的には飲み物を「お供えする」という。我々にお供えされたのは、三月限定のお化けカクテル「呪いの果実」と「じぇしかのカクテル」。「呪いの果実」はカップが髑髏型で呪いの果実感が強い。中身には幽霊が樹海で積んだ毒イチゴが使用されている。気をつけてお飲みくださいと言われたが、どうしようもない。美味しいものは毒だ。毒イチゴというならばきっと美味しい。そう思うことにして、毒など気にせず口をつけた。案の定美味しかった。女性が好きそうな飲みやすい味である。ぜひ、多くの女性の仏様にこのおどろおどろしい髑髏カップで飲んで欲しい。

次に「じぇしかのカクテル」。「遊麗」では幽霊店員さんがそれぞれのオリジナルカクテルを目の前で作ってくれるサービスがある。ただ目の前で作るだけではない。彼女たちが、なぜ幽霊になってしまったのか、なぜ死んでしまったのかという死因を語りながら作ってくれるのだ。「じぇしかのカクテル」を今回は注文したのでじぇしかさんが自身の死因を語ってくれた。

「私の死因なんですけども、私生前結構お金持ちのお家に生まれていて、いわゆるお嬢様だったんですね~。成人した時、お父様からもらった自家用ジェットに乗っていた時に悲劇が起きてしまいました。アメリカに飛んだ際なんですけども、機内で踊り狂っていたら誤って窓ガラスを割っちゃいましてそのまま下に墜落死しちゃったんですね~。」



なかなか壮絶な死因だった。じぇしかさんの見た目から、そもそも踊り狂うような人には見えない。しかし、このエピソードを明るく楽しく語る姿からは狂気が垣間見えた気がする。


「そんなドジっ子な私のカクテル、私が最後に見たアメリカの綺麗な草原の色をしています。ちょっと色が複雑に濁ってしまったんですけども祖国で死にたい想いをたっぷり込めて参りましたー。事故などにあわぬように気をつけてください。」

そう言われると一気に飲みにくくなった。祖国で死にたい想いを込めたカクテルを未だかつてみなさんは飲んだことがあるだろうか。そんなリキュール絶対に苦いに決まっている。でも飲まないとじぇしかさんも浮かばれないだろう。渋々飲んでみる。すると想いの苦々しさより、草原の爽やかさの方が勝っていた。そして味のベースは梅のようだ。やはり日本への未練がたっぷり感じられる。

続いて料理が運ばれて来た、いやお供えされた。見た目のインパクトがすごいのは「眼球」である。四つの眼球がお皿に並ぶ。つまり二人分くり抜かれている。ちなみにお化けの眼球で、ランダムにくり抜いているという。いくらお化けであるとしても、たまたま目をくり抜かれたお化けには同情してしまう。それこそ、南無~と思いながら、口に運ぶ。濃厚なクリームチーズだった。コクがあって美味しい。すぐ四つ食べきってしまった。



また、「お墓参り」と「わら人形君」もお供えされた。「お墓参り」は二基の揚げ出し豆腐のお墓にきのこの特製ダレをかけて味わう。お墓に水を掛ける時のように、故人を想いながら食べるとより美味しい。



「わら人形クン」は二体のヒト型の串揚げだ。わらお君とわら子ちゃんという名前らしい。二人の胸にぐさりと刺さった串が痛々しい。嫌いな人のことを思いながら食べるといいという。アドバイス通り、がぶりと噛り付かせていただいた。



揚げ物は両方とも美味しく安心していた時、地獄からのお供え物が届いてしまった。



 オケラである。「遊麗」では昆虫を注文すると閻魔様が草葉の陰で捕まえて来てくれる。オケラは最近地獄に来たばかりの新人さんだという。食感はサクサクしていて、味は苦い。ミックスナッツでお口直しをしながら食べ進みたい。

そしてようやくメインディッシュがお供えされた。「スペアリブの火葬焼き」だ。店長の閻魔様が火葬場に寄ってから作るのに時間がかかったらしい。合図とともに大きな火柱があがる。天井に吊るされた提灯の位置まで火が届いてしまっている。ど迫力な火柱をつい、ぼんやりと眺めてしまう。自分が死んだらこれほどダイナミックに焼いてほしいものだ。



パフォーマンスだけでなく味も安定して美味しかった。焼いてくれる閻魔様のビジュアルが料理人っぽいので更に美味しく感じる。


ここで腹ごなしとしてじぇしかさんが呪いの儀式を準備してくれた。その名も「恐怖のロシアンルーレット」。「地獄行き」の激辛ちくわ串揚げが紛れている壺の中から、相談して自分の串を一本選び、口に運ぶというルールだ。ここ「遊麗」では死後の行き先を三階級の裁判で決める。十回の裁判で死後の行き先を決める十王裁判に比べれば、苦は少ない。今回の激辛ちくわ串揚げはレベル1であり、ミニ鬼の裁きである。その裁きに納得がいかなければ、レベル2・鬼の裁きである激辛シュークリーム、そして最終関門・閻魔大王の裁きである激辛餃子に挑戦することができる。簡単に上訴することはできるが、階級が上がれば上がるほど、裁きは厳しくなるので覚悟が必要である。レベルマックスの閻魔大王の裁きで地獄行きになった場合、じぇしかさんいわく、「鼻の中が血の池地獄」に突き落とされるそう。そうこう話している間に、裁きの壺が運ばれて来た。壺の中の串揚げは、ぱっと見だけでは区別がつかない。すでに、見た目で激辛を見分けるような小ずるい人間かどうか裁かれているような気がする。もう、直感で選ぶしか他ない。串揚げを壺から引き、裁きを待つ。じぇしかさんの「せーの、ぱく~」というゆるい掛け声が裁きの合図だ。一斉に口へと運ぶ。その瞬間、私の地獄行きが決定した。我慢できるレベルの辛さではあるが、上訴は怖いので素直に申告。すると、じぇしかさんが「おめでとうございます~。ご臨終で~す! 」と幽霊の仲間入りを祝い、お揃いの三角を頭につけてくれた。

呪いの儀式はこれで終わりではない。ご臨終の後には「納棺の儀式」が執り行われるのだ。霊柩車が迎えに来て、棺桶の前まで運ばれる。



ここには共に裁きを受けた仲間も「ご遺族」として同行する。まず、さっきの裁きで地獄に落ちたものは死装束を着る。死装束なんてもちろん初めて着るので勝手がわからなかったが、幽霊の先輩であるじぇしかさんがレクチャーしてくれた。右の襟が上にくるように着るが、名前は左前というらしい。「遊麗」から人間界へと戻ってからでも役に立つ常識なので覚えておきたい。準備が整うと、ついに納棺された。棺桶の中に入ると、ご遺族がじぇしかさんの指示に従って弔ってくれる。お別れの言葉とお花が供えられ、棺桶の蓋が閉められる。その時は本当に死者の気持ちを体感できる。深い眠りに落ちる感覚と似ているが、遠い眠りという表現の方が近い。棺桶の外ではお経と木魚に合わせて合掌されているのがわかる。安心するような、でも寂しい孤独である。そろそろ寂しい気持ちが強くなった頃に、ちょうど棺桶が開き、儀式が終了した。本当に死ぬ前に、霊界で予行練習ができたのはいい経験になった。生前葬は長生きにもつながるので、ぜひ試していただきたい。




腹ごなしも終わり、食後のデザートを注文。先ほど、激辛ちくわ串揚げを食らったのでお口直しをしたい。そして運ばれて来たのは「雪女の燃える恋」。ただのアイスで、雪女要素しか感じ取れない。これから恋愛成就のおまじないを行うのだという。じぇしかさんは雪女にもらった恋愛成就の秘密のエキスをたっぷりとアイスにかけた。そしてこれから炎が灯る間に恋のお願い事をすることをおすすめした。炎が灯る間?そう疑った次の瞬間、じぇしかさんはアイスに炎を灯した。それはそれは青く美しい炎だった。見とれながらも、じぇしかさんの言葉を思い出し、願い事をした。



火が消えた。アイスが溶けていないか心配になり、確認したがアイスは大丈夫だった。雪女の魔力だろうか、不思議だ。

「ちなみにお願い事が叶う確率は南無の76%で~す」

私に今年中に彼氏ができる確率76%……。もう少し雪女には頑張って欲しかった。

恋愛運は76%と微妙な確率ではあるが、雪女からの後押しがあるので安心だ。でも、他の運勢が気になる。すると、じぇしかさんは「幽霊おみくじ」を勧めてくれた。早速引いてみる。なんと私は大吉を引いた。しかし、様子がおかしい。「総合運 わら人形に打ちつけられてます」と書かれていたのだ。なぜ、大吉なのにこれほど不吉な目に合わなければいけないのだろうか。

「言い忘れてましたが、霊界でのおみくじ、大吉が一番運勢悪くて、凶が一番運勢いいんですよ~」

じぇしかさんの言い忘れにより、ぬか喜びした自分がいた。霊界では運勢があべこべになっている。つまり私は人間界でいう凶を引いてしまったということだ。でも、心配はいらない。隣に書いてあるラッキーアイテムを食べれば、運勢は回復するらしい。私のラッキーアイテムは「わら人形クン」。もうすでに食べているので、私の総合運はわら人形に打ちつけられることはない。引いたおみくじは持ち帰ってもいいし、店内の竹に結びつけても良い。




様々な霊界の儀式も受け、霊界の食べ物も食べ終わり、心も体も霊気で満たされた。もう人間界への未練が無くなり、「遊麗」に住み着きたいと思うようになって来た。ここで、我々よりもずっと前から成仏し、「遊麗」で働いているじぇしかさんにお話を聞こうと思う。

「ここは霊界の居酒屋ですね~。死者しか入れないので、入った方はもうみんな死者になります~」

ざっくり、ここ「遊麗」とはどのようなところか話してくれた。我々、客が「仏様」と呼ばれるのは、入店と同時に臨終したからである。でも安心してほしい。我々はいわゆる臨死体験をしているようなものだ。じぇしかさんや他の幽霊の店員さんはもう霊界の人なので、生き返ることはできない。しかし、我々は一時的に霊界にお邪魔しているだけなので、店を出れば人間界へと帰ることができる。店長の閻魔様は「遊麗」での勤務も大歓迎しているので、霊界の居心地がよくて、帰りたくなくなったら、死んでから出直すのも有りだろう。


「閻魔様の力でなんとかしております」

吉祥寺に突如現れた霊界「遊麗」。本来、霊界というのは普通の人間ではたどり着くことができないような僻地にあるものだが、なぜ吉祥寺の真ん中に霊界が存在できているのだろうか。時空の歪みか、神仏の気まぐれか。そう考えていたら、じぇしかさんから「閻魔様の力」という最も強い答えをいただいた。閻魔様というのはご存知の通り、死者の罪を裁く裁判官であり、「遊麗」の店長でもある。先ほどオケラを地獄から捕まえてきてくれたり、スペアリブを我々の前で焼いてくれたりしてくれたように、料理長的な一面もある。そして、吉祥寺と霊界を結びつけている人物でもあるというのだから、ますます閻魔様の謎は深まる。なんでもこなす閻魔様にとって、吉祥寺に霊界の入り口を一つ作るくらい朝飯前だったのかもしれない。



「仏様に遊んでいただけるような霊界の遊び場を作っております~」

そんな閻魔様の霊界は普通の霊界ではない。読み方は「ゆうれい」だが、「遊麗」という当て字を使っている店名通り、楽しく遊べる霊界をモットーにしている。我々も実際に「恐怖のロシアンルーレット」や「納棺の儀式」、「幽霊おみくじ」で遊び倒した。霊界とは思えないほど楽しませていただいた。


「死んでから大体一年五か月ですね~」

「遊麗」のお話を聞けたので、今度はじぇしかさんに迫ろうと思う。じぇしかさんが亡くなって、ここ「遊麗」に来たのは一年五か月も前。「遊麗」には死にたてホヤホヤの幽霊もいるので、彼女は幽霊の中ではベテランの類に入るらしい。自家用ジェット機の中で踊り狂って窓から転落死してから約一年半。月日が経ったからだろうか、彼女からはもう、死んでしまった悲しみは感じられない。でも、やはり祖国で死にたかったと話す彼女の顔には一瞬だけ、影が見えた。


「普段は多磨霊園で眠っているんですよ」



なんと彼女の住処は多磨霊園らしい。多磨霊園というのは吉祥寺から二駅ほど離れた都立霊園である。やはり、生前お嬢様だった彼女は、死後も有名どころに住んでいる。「遊麗」でのお勤めの時に目を覚まし、移動しているのだとか。幽霊の彼女も電車に乗って通勤しているのだろうか。


「足がないのでいろんなところに飛び回ったりしております」

電車にコトコト揺られている姿を想像した我々が愚かであった。彼女にはもう、足という呪縛がない。どこへでも自由自在に飛び回ることができるのだ。それにしても出勤時間0秒というのは羨ましい。どこでもドアでさえ、開けて閉めるのに10秒ほどかかる。起きてすぐに移動できるなら、私ならきっと墓にいる間は寝腐ってしまう。


「偵察ということで人間界である店の外に立ってお客さんを観察しながら呼び込みをしたりはしますね~」

足がないのでどこへでも行けてしまうじぇしかさん。人間界に行くことはあるのかという質問にはこう答えた。人間界に未練を残しているが故に幽霊になったというだけあって、人間界の偵察は欠かせないらしい。それにしても、幽霊の口から呼び込みという言葉を聞くと、不穏な響きにしか聞こえない。「遊麗」が楽しい霊界と知らない人にとっては、霊界へ手招きされることほど怖いものはない。


「ちょっとその辺は内緒でお願いします~」

幽霊といったら、人間に悪さをするイメージが強い。心霊番組でも度々紹介される。悪いケースだと、取り憑く、呪い殺すなんてことも聞く。じぇしかさんは実際どうなのかと聞いたが、上手にはぐらかされてしまった。ジェット機の中で踊り狂うという奇行を死の直前までしていたじぇしかさんなら、奇天烈な悪さをしているかもしれない。しかし我々はこの二時間の彼女の丁寧な態度を見て、悪さはしない幽霊と断定している。どちらにせよ内緒なので、少しの想像だけでとどめておこう。




「私たちにとって仏様は人間界について色々知るための情報源でもありますし、人間界との交流の糸口として楽しいお思いをさせていただいてます」

じぇしかさんにとっての仏様はやはり、未練を残した人間界のことを知るための情報提供者という面が大きい。呼び込み時の偵察だけでは情報は足りない。仏様と異界間コミュニケーションを取ることでやっと満たされる。仏様からはどんどんお話を聞きたいらしい。そして人間界のことを教えてもらったら、代わりに霊界のことも教えてくれるという。今回は一つ、私たちが知らない霊界のことを特別に教えてもらった。

「ここで働いている幽霊すごく仲がいいんですよ~。営業が終わった後も霊界で楽しくお酒を飲んだりとかはありますね~」

霊界のほっこりするお話を聞くことができた。通常、幽霊の店員さんは二人しかいないため、なかなかわからないが、他の幽霊もみんな仲がいいのだという。幽霊それぞれ個性が強いので楽しいのだとか。そんな仲良しで楽しい仲間の幽霊にも会えるので、他の日にも遊びに来て欲しいとじぇしかさんは付け足した。


最後にこれから来店予定のある仏様に一言、じぇしかさんからいただいた。

「手軽に死者気分を味わえる霊界となっておりますので、ぜひ楽しみに来てください~」



今回、「遊麗」という霊界の居酒屋を覗いてみて、暗くてこわい霊界のイメージが180度変わった。こんなに楽しい死後が待っているなら、死ぬのも悪くない。死後の恐怖が和らぐどころか、我々は死後の安心感まで手に入れた。もしも人間界での生活が辛くなったら、いつでもここに来ればいい。人間界で死んだ目をして生き続けるくらいなら、霊界で仏様として思う存分遊んで元気を取り戻す。それこそが人間界の賢い生き方ではないだろうか。我々は入店前よりも生き生きした気持ちで霊界をあとにした。



ライター:わい
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